行政書士の資格の難易度は?取得方法やメリットを解説
目次
国家資格のひとつでもある「行政書士」は、私たちの身近な法律家として広く知られています。
安定した職業ですので転職先として候補に挙げる人も多いのですが、難しいイメージから資格取得に不安を抱く方もいることでしょう。
ここでは行政書士の資格取得に関する難易度や勉強方法など、幅広くご紹介していきます。
行政書士とは

行政書士とは「行政書士法」に基づく国家資格のことで、官公署へ提出するための書類の作成や提出だけではなく、公的な手続を代理で行うなど行政に関わる幅広い業務を請け負うことができる職業です。
しかも行政書士は独占が許されている分野というだけでなく、他の資格で独占されていない分野の仕事を請け負うことができます。
あらゆる手続や書類作成をするためには専門的な知識が必要になりますので、行政書士が代理することで依頼人と官公署とのやりとりがスムーズになり、双方の権利や利益を守ることができるのです。
行政書士は、法律に関する知識が豊富なことから就職・転職にも有利に働く資格といわれています。
行政書士の目的
行政書士の試験は、特別な受験資格は必要ないため、年齢・学歴・国籍等に関係なくだれでも受験することができる国家試験です。
ただし、弁護士・弁理士・公認会計士・税理士の資格を持っている場合や、公務員として行政事務に17年(中学校卒業の方は20年以上)携わった実務経験がある場合は試験が免除されます。
行政書士試験は行政書士法に基づき、総務大臣が定めるところにより行政書士の業務に関して必要な知識や能力があるかを問う試験です。
行政書士を目指すのであれば「行政書士試験」を受けることが一番の近道となるでしょう。
試験日・実施会場
行政書士試験の案内は、毎年7月の第2週の公示日より「行政書士試験研究センター」のホームページに掲載された後、毎年8月初旬から各都道府県、各都道府県行政書士会等に郵送にて配布されています。
試験は年1回、11月の第2日曜日に実施されています。試験時間は午後1時から4時までの3時間で途中休憩はありません。
受験する会場は現在のお住まいや住民票記載住所に関係なく、希望する全国の試験場であればどこでも受験することができます。(※現在は新型コロナウイルスの影響で、県をまたいでの受験は控えるよう促しているところもあります)
受験手数料は7,000円で、地震や台風などにより試験を実施できなかった場合などを除いて返還されることはありません。なお、振り込みに関する費用は受験申込者の負担となります。
受験者数
令和2年度の受験者数は、昨年度から1,860人増えて41,681人でした。
毎年4万人前後の人が受験していて、その内の約7割は男性です。
年齢制限のない国家試験ということもあり受験者の年代も幅広く、令和元年度は申込者の最年長が95歳(男性)、最年少は12歳(男・女、各1名)。合格者は最年長で79歳(男性)、最年少で15歳(男性)となっています。この資格があれば年齢を気にせず仕事を続けられることもあって、こういった傾向がみられます。
試験の難易度

行政書士試験は、一定の基準を満たせば合格できます。合格基準は以下の通りです。
次の要件のいずれも満たした者を合格とします。
① 行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、満点の50パーセント以上である者
② 行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、満点の40パーセント以上である者
③ 試験全体の得点が、満点の60パーセント以上である者
(注) 合格基準については、試験問題の難易度を評価し、補正的措置を加えることがあります。
気になる試験の難易度ですが、過去3年の受験者数と合格者数を見てみると合格率は10%前後となっています。難易度は低くありませんが、実力をつければだれでも合格が目指せる法律系の国家資格であるともいえるでしょう。
【過去3年間における行政書士試験の受験者数と合格者数】
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
令和元年度 | 39,821人 | 4,571人 | 11.5% |
平成30年度 | 39,105人 | 4,968人 | 12.7% |
平成29年度 | 40,449人 | 6,360人 | 15.7% |
試験内容
試験科目は2つです。出題数と出題形式と合わせて以下の通りになります。
●行政書士の業務に関し必要な法令等
- 憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法および地方自治法を中心とする)、民法、商法および基礎法学
- 出題数46題
- 出題形式は択一式および記述式
●行政書士の業務に関する一般知識等
- 政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解
- 出題数14題
- 出題形式:択一式
民法(出題分野)
民法は出題の4分の1を占めています。出題形式は択一式と記述式の両方がありますので、丸暗記だけではなく内容をしっかりと理解するよう努めましょう。
改正点は必ず出題されますので、改正前と改正後を混同しないよう覚えておくことが大切です。
【問題例】
家族 ・ 婚姻に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
1 嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の 2 分の 1 とする民法の規定は、当該規定が補充的に機能する規定であることから本来は立法裁量が広く認められる事柄であるが、法律婚の保護という立法目的に照らすと著しく不合理であり、憲法に違反する。
2 国籍法が血統主義を採用することには合理性があるが、日本国民との法律上の親子関係の存否に加え、日本との密接な結びつきの指標として一定の要件を設け、これを満たす場合に限り出生後の国籍取得を認めるとする立法目的には、合理的な根拠がないため不合理な差別に当たる。
3 出生届に嫡出子または嫡出でない子の別を記載すべきものとする戸籍法の規定は、嫡出でない子について嫡出子との関係で不合理な差別的取扱いを定めたものであり、憲法に違反する。
4 厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間(100 日)を超えて女性の再婚を禁止する民法の規定は、婚姻および家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超え、憲法に違反するに至った。
5 夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況は実質的に法の下の平等に違反する状態といいうるが、婚姻前の氏の通称使用が広く定着していることからすると、直ちに違憲とまではいえない。
正解:4
行政法(出題分野)
行政法の分野からは全体の40%近くの問いが出題されますので、行政書士試験に合格するためには最も重要な科目と覚えておきましょう。
出題範囲はかなり広いのですが、こちらは民法とは違ってとにかく「丸暗記」していくことが攻略の鍵です。
行政書士の実務との関わりも深い分野ですので、しっかり押さえておきましょう。
【問題例】
行政上の義務の履行確保手段に関する次の記述のうち、法令および判例に照らし、正しいものはどれか。
1 即時強制とは、非常の場合または危険切迫の場合において、行政上の義務を速やかに履行させることが緊急に必要とされる場合に、個別の法律や条例の定めにより行われる簡易な義務履行確保手段をいう。
2 直接強制は、義務者の身体または財産に直接に実力を行使して、義務の履行があった状態を実現するものであり、代執行を補完するものとして、その手続が行政代執行法に規定されている。
3 行政代執行法に基づく代執行の対象となる義務は、「法律」により直接に命じられ、または「法律」に基づき行政庁により命じられる代替的作為義務に限られるが、ここにいう「法律」に条例は含まれない旨があわせて規定されているため、条例を根拠とする同種の義務の代執行については、別途、その根拠となる条例を定める必要がある。
4 行政上の秩序罰とは、行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰であるが、刑法上の罰ではないので、国の法律違反に対する秩序罰については、非訟事件手続法の定めるところにより、所定の裁判所によって科される。
5 道路交通法に基づく違反行為に対する反則金の納付通知について不服がある場合は、被通知者において、刑事手続で無罪を主張するか、当該納付通知の取消訴訟を提起するかのいずれかを選択することができる。
正解:4
基礎法学(出題分野)

この分野は、年度によって出題される範囲や難易度にバラつきがあり受験生にとって予測の難しい問題が出るとされています。
過去問を解いてみると、どのような出題のされ方をしているのかが分かります。テキスト等で基礎知識をしっかりつけた上で時事的な話題も頭に入れておきましょう。
【問題例】
裁判の審級制度等に関する次のア~オの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。
ア 民事訴訟および刑事訴訟のいずれにおいても、簡易裁判所が第 1 審の裁判所である場合は、控訴審の裁判権は地方裁判所が有し、上告審の裁判権は高等裁判所が有する。
イ 民事訴訟における控訴審の裁判は、第 1 審の裁判の記録に基づいて、その判断の当否を事後的に審査するもの(事後審)とされている。
ウ 刑事訴訟における控訴審の裁判は、第 1 審の裁判の審理とは無関係に、新たに審理をやり直すもの(覆審)とされている。
エ 上告審の裁判は、原則として法律問題を審理するもの(法律審)とされるが、刑事訴訟において原審の裁判に重大な事実誤認等がある場合には、事実問題について審理することがある。
オ 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について、下級審の裁判所を拘束する。
1 ア・イ
2 ア・オ
3 イ・ウ
4 ウ・エ
5 エ・オ
正解:5
商法(会社法)(出題分野)
商法(会社法)は、学習の仕方を工夫して進めていくことが効果的です。商法については民法と比較しながら覚えるなどし、会社法では会社の設立には欠かせない「株式」に関するルールなど的を絞ってしっかり押さえておきましょう。
【問題例】
公開会社でない株式会社で、かつ、取締役会を設置していない株式会社に関する次の記述のうち、会社法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
1 株主総会は、会社法に規定する事項および株主総会の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができる。
2 株主は、持株数にかかわらず、取締役に対して、当該株主が議決権を行使することができる事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。
3 株式会社は、コーポレートガバナンスの観点から、 2 人以上の取締役を置かなければならない。
4 株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができる。
5 取締役が、自己のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
正解:3
資格が役立つ場面
行政書士ができる官公署に提出する書類作成・代理手続ですが、具体的には以下のような業務があります。
- 遺言・相続に関する書類作成・代理手続
- 土地や建物の賃貸借契約書の作成
- 交通事故に関する代理手続
- 建設許可書などの許認可に関する書類作成・手続代理
- 法人関係の手続
- 日本国籍取得などの外国人の手続代理
- 著作権など知的財産の保護
- 電子申請、電子調達
など、行政書士はかなり幅広い分野で活躍できる資格です。
ただ取り扱える案件や分野が広いため、実際には得意分野に絞って仕事を担当する人も多いようです。
おすすめ勉強方法

行政書士試験に合格するための勉強スタイルは、大きく分けて2つあります。
- 通学・通信講座
- 独学
今回は独学で行政書士試験の合格を目指す方におすすめの勉強法として以下の2つをご紹介します。
- テキスト(参考書)
- 過去問題、問題集
今の仕事と並行して学習できる「独学」にスポットを当てて、テキストの選び方や学習方法について見ていきましょう。
テキスト
行政書士試験のテキストを選ぶのであれば、必ず現時点で決定されている法改正が反映されているものを選びましょう。過去のテキストでも学習することは可能ですが、すでに改正された法律や条例を学んでも何の役にも立ちません。
- うかる! 行政書士 総合テキスト 2020年度版 /伊藤塾
司法試験の合格実績でも知られる「伊藤塾」が出版している参考書は、多くの行政書士試験合格者から「役に立った」という口コミで知られています。
別冊で「ハンディ行政書士試験六法」が付き、本試験レベルの問題にスマホからチャレンジできます。初めて学習する人でも分かりやすい内容になっていますのでおすすめの1冊です。
過去問・問題集
行政書士試験の過去問題は「行政書士試験研究センター」のホームページ上に過去6年分が掲載されています。試験問題の正解も一緒に掲載されていますので、本番さながらの模擬試験を自宅で行うことも可能です。
試験のイメージがつかない方など、過去問題を解くと試験のペース配分を掴めます。本番と同じスケジュールで行うとよいでしょう。
過去問題はできるだけ試験前の時期に、知識の定着や弱点を探すために活用するとより効果的です。知識が何もない状態では難しく感じるため、テキストなどとあわせて活用しましょう。
まとめ

行政書士は「今の仕事よりキャリアアップを図りたい」「自分の力を試してみたい」など、転職を機にステップアップを図りたい方にもおすすめの職業です。
また「法人に所属して働く」「独立開業して働く」といった2通りの働き方が選べることも魅力のひとつとして挙げられます。
行政書士試験は学歴・年齢を問わずチャレンジできますので、あらゆる世代の転職に適した資格といえるでしょう。