通訳案内士の難易度や役立つシーンを紹介
目次
通訳案内士とは、主に日本を訪れる外国人観光客に対して日本文化や観光地の魅力を伝え、旅行のサポートも務める国家資格取得者のことです。日本の歴史や文化、経済など幅広い知識と語学力で、国際親善の一翼を担うというやりがいもあります。また、近年はアジア圏の言語も含めた幅広い人材需要もあり、資格を取れば海外転職も夢ではありません。
ここでは、通訳案内士について難易度や役立つシーンをご紹介します。
*注
この稿では国家資格の通訳案内士について述べていますが、正式名称は「全国通訳案内士」といい、各地域の自治体が認定する「地域通訳案内士」とは別物です。
通訳案内士とは

外国人観光客を流暢な外国語を駆使して案内している姿はカッコよくて憧れますよね。通訳案内士とは、世界各国から訪れる外国人に対して、日本の伝統や文化のすばらしさを伝え、快適な旅行を多角的にサポートする仕事であり、単なる通訳だけを行う仕事ではありません。そのため、外国語でネイティブとやり取りできる語学力と、日本の歴史や文化などへの知識が必要とされます。
通訳案内士の目的
日本を訪れる諸外国の旅行者の快適な旅行をサポートし、日本独自の伝統文化や国としての魅力を伝えるという、民間外交官ともいわれる重要な職務であることから、高いレベルの語学力と広範囲の知識が問われる資格です。
通訳案内士になるための試験は毎年1回行われ、筆記試験と口述試験があります。日本の地理、歴史、産業・経済・政治及び文化に関する一般常識と共に、外国語による高いコミュニケーション能力が問われる試験です。合格すれば、地域に関わらず有償で通訳案内業務を行うことが可能となり、ハイレベルな語学力の証明ともなります。対象となる言語は英語、フランス語、ドイツ語、中国語、タイ語など10か国語で、年齢、性別、学歴、国籍などに関係なく受験が可能です。
試験日・実施会場
2020年は願書配布と受付が6月、筆記試験が8月、合格発表が11月、口述試験は12月に実施され、最終合格発表は翌年2月、という流れですが、今後変更となる可能性もあるので政府観光局のホームページで確認してください。試験会場は国内8か所と準会場2か所、国外ではソウル(韓国語)と台北(中国語)で行われるのが通例(2020年は国内のみ)です。口述試験の会場は、英語・中国語・韓国語以外は東京近郊のみです。受験にかかる費用はクレジットカードの場合、1か国語で12,029円、2か国語なら24,061円となっています。コンビニ決済は手数料が変わるので注意してください。
受験者数
毎年1万人程度の受験者がいましたが、ここ2~3年は7千人台です。これは訪日外国人が増えると同時に、国家試験の有資格者のレベルを上げたいという方針のもと、試験の難易度が上がったからという見方もありますが、今後の動向が注視されます。語学力に自信のある人で、外国人との文化交流を楽しみたい、といった人が受験する傾向が強いですが、日本の歴史や文化、地理など広範囲の知識が問われることがネックになって受験者数の減少につながっているかもしれません。
試験の難易度
各国語ともグレード別の資格設定はありません。平均最終合格率は2016年度には21.3%でしたが、2018年には9.8%になり、2019年度は8.5%まで下がっています。一次試験の合格率が2016年には29%でしたが、2019年には16%と大幅に下がっていることから、一次の筆記試験の難易度が上がっているとも言われます。10%の壁、と言われていた合格率が8.5%まで下がり、今後もこのトレンドは変わらないという見方が有力なようです。
試験内容

一次試験の筆記問題は、外国語筆記試験120分、日本地理筆記試験40分、日本歴史筆記試験40分、それぞれ100点満点中70点以上が合格基準点、一般常識筆記試験20分、通訳案内の実務筆記試験20分のそれぞれで50点満点中30点が合格基準点です。すべての分野で合格基準点に満たないと合格できません。特に、外国語筆記試験は非常にハイレベルです。口述試験は主に通訳案内業務の現場で必要となる知識や対応を見るもので、評価項目はプレゼンテーション、コミュニケーション、文法及び語彙、発音及び発声、ホスピタリティの5点となっています。
外国語筆記試験(出題分野)英語
<英語の過去問例>
次の日本語で書かれた下線部の内容を英語で端的に表現する場合に最も適切なものはどれか。
A:すみません、Wi-Fiを使いたいのですが。
B:登録しないといけませんが、コンビニに行けばたいてい繋がりますよ。
- You have to register first,and you are available for Wi-Fi at the convenience store.
- You have to login first,but there is free Wi-Fi at convenient store.
- You must register,but Wi-Fi is usually available at convenience stores.
- You must download the app,but you can usually use Wi-Fi at convenient stores.
案内業務の実務でありそうなアドバイスや日本のしきたり、観光名所での説明などの適切な説明は高い頻度で問われ、設問も多く読解力も問われます。ちなみに、上記の問題の正解は③です。
日本地理(出題分野)
<過去問題>
地図中ア~ウは、三宅島、八丈島、大島のいずれかを示している。その組み合わせとして正しいものを次の①~⑥から1つ選びなさい。
こうした地図を伴った問題と、観光地である日光や富士山周辺の地理に関する文章をベースに、複数問設定されている問題が高頻度で出題されており、地域も日本国内の広範囲が対象となっています。この問題の正解は④です。この分野も7割以上の正解が求められるので、全土にわたって漏れなく勉強することが必要だと言えるでしょう。
日本歴史(出題分野)

<過去問題>
日本は終戦後、朝鮮戦争による特需を足掛かりとして、目覚ましい経済復興を遂げ、1950年代後半には高度経済成長期を迎えた。国民経済が豊かになり、家庭にはa「三種の神器」とよばれた家庭電化製品が普及した。また、1964年の東京オリンピック開幕を前にb東海道新幹線が開業し、都市高速道路が開通した。
- 下線部aの説明として正しいものを、次の①~④から選びなさい。
- 電気冷蔵庫・電気洗濯機・電気炊飯器
- 電気冷蔵庫・電気洗濯機・テレビ
- クーラー・カラーテレビ・電子レンジ
- クーラー・カラーテレビ・オーブントースター
- 下線部bの説明として正しいものを。次の①~④から選びなさい。
- 東海道新幹線は、在来線とは異なる規格で建設され、開業時に210km/h運転を実現した。
- 東海道新幹線開業時の列車名は「ひかり」のみであった。
- 東海道新幹線開業時には、新横浜と岐阜羽島の両駅はなかった。
- 東海道新幹線開業時には、東京・新大阪間を最速で3時間10分で結んだ。
飛鳥時代や戦国時代から現代に近い歴史も対象となっているなど、こちらも広範囲の知識が問われます。この問題の正解は問1は②、問2は①です。特に、外国人観光客の関心の強い技術に関連した問題や戦国時代の歴史などは、出題頻度が高い傾向にあります。
産業・経済・政治および文化に関する一般常識(出題分野)
東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する次の問いに対して、それぞれ答えなさい。
(1)1964年東京大会の選手村は(ア)、2020年東京大会の選手村は(イ)に所在している。空欄(ア)と(イ)に当てはまる組み合わせのうち正しいものはどれか。次の①~④から一つ選びなさい。
①ア:世田谷区の駒沢公園 イ:江東区の有明
②ア:渋谷区の代々木公園 イ:中央区の晴海
③ア:立川市の昭和記念公園 イ:港区の台場
④ア:世田谷区の駒沢公園 イ:中央区の晴海
この問題の正解は②です。時事性のある国内問題に関するものの他、訪日外国人観光客の動向やIR(統合型リゾート)の誘致実現に関する制度など、選択式ではあるものの難問ぞろいとなっています。また、過去の大きな出来事に関する問題は頻度が高い傾向です。一般常識レベルではありますが、正確な知識が問われます。
通訳案内の実務(出題分野)
<過去問題>
旅程管理の実務に関する各問いについて、それぞれ答えなさい。
- 次の記述のうち、旅程管理に関する記述として正しいものはどれか、①~④の中から一つ選びなさい。
- 広義の旅程管理とは、通訳案内を行うにあたって訪日外国人旅行者の初校が円滑に実施されるよう、交通機関、宿泊施設、食事施設等の調整や案内等、訪日外国人旅行者のサポートを行うことを言う。
- 全国通訳案内士が手配旅行の天井を行う場合には、旅程管理主任者の資格が必要となる。
- 全国通訳案内士は、旅行業法に基づく旅程管理業務(狭義の旅程管理)と通訳案内士法に基づく通訳案内に付随する旅程管理(広義の旅程管理)を合わせた旅程管理業務を行わなければならない。
- 訪日外国人旅行者から通訳案内を直接依頼された場合においても、狭義及び広義の旅程管理業務は実施する義務が発生する。
正解は①です。この他、災害時の対応や病気、トラブルになった時、コンプライアンスに関するものなど、実務に即したものや旅行業法に関する問題が頻度高く出題されています。突発的な出来事にも対応できる判断能力と知識が必要です。
資格が役立つ場面

国家資格であることが強みであり、何より外国語でのコミュニケーション能力が高い証明となるのがこの資格です。加えて、日本文化や歴史、産業・経済にも通じているハイクラスな民間外交官としての資質を持っていることの証明にもなります。ただし、通訳案内士としてどこかの企業に就職するというよりも、フリーランスで働く人が多いのも実情です。また、交通関係のインフラ会社や学校の先生など、ガイド業以外でも資格を活かして活躍できます。外資系企業への就職・転職にも有利であり、海外の企業で活躍の場を探す道もあり得るでしょう。
おすすめの勉強方法
言語系では唯一の国家資格といわれる通訳案内士。それだけに、まずは外国語の習得レベルが一定以上必要なので、各外国語にある程度の強みのある人におすすめの資格です。この資格の勉強を始める時点で、最低でも英語なら英検2級レベル、中国語なら中検2級程度の力は必要と言われており、そのレベルに達していない場合は、まず外国語のレベルアップを目指すことが重要です。
語学以外をゼロベースで勉強する場合、独学で3年程度はかかるといわれる難関です。試験対策スクールに通うか独学を選ぶかは人によって違いますが、ここでは一定以上外国語に自信のある人が独学する場合を想定して勉強法をご紹介します。
筆記試験の勉強法
外国語は一次試験免除を狙うのもひとつの方法です。例えばTOEICなら Listening&Readingで900点以上、Speakingで160点以上、Writingで170点以上という条件で一次筆記試験が免除されます。その他の言語においても、中国語なら中国語検定試験1級合格、フランス語なら実用フランス語技能検定1級合格など、それぞれ1級レベルの力がないと合格できない試験です。語学力に自信がある人なら免除条件を事前にクリアしておくと、試験当日の負担がかなり減るので有利になるでしょう。
ただし、外国語をクリアできても、地理や歴史の筆記試験も非常に難易度が高く、十分な勉強時間が必要です。地理については基本を復習し地図ドリルなどで各都道府県を知り『通訳アカデミー』などの参考書で学び過去問を解くというのが王道と言えます。歴史は特に文化史が重要で、おすすめは『超速!最新日本文化史の流れ』や『詳説日本史図録』と過去問です。一般常識は公民を学び直し、日系キーワードでトレンドニュースを覚えることと過去問対策がものを言うでしょう。通訳案内の実務対策は、関係する法令や旅程管理などが中心で広範囲ながら観光庁研修のテキストに基づいています。
口述試験の勉強法
一次の筆記試験にパスしたら受けられる試験ですが、基本的に語彙の豊富さがカギになります。試験内容は、用意されたテーマから1つを選んで外国語で説明するプレゼンテーションと、面接官が読み上げる日本語を逐次通訳すること、質疑応答の3つがあるので、それに沿った勉強法を組み立てましょう。
逐次通訳の勉強法としては、外国語で日本の事情を語っている本(例:『英語で日本紹介ハンドブック』)などを参考に語彙を増やすことが重要です。すべてを正確に訳するよりも、キーワードを漏らさずに近い意味の言葉に置き換える練習をしましょう。
プレゼンや質疑応答対策には、動画オンライン教材がおすすめです。また、フレーズをコツコツ覚え、豊かな表現力を身につけて臨みましょう。対策スクールの中には、口述試験の再現などを実際に見て学べるところもあります。
まとめ

通訳案内士は、語学系としては唯一の国家資格だということもあり、非常にレベルの高い試験です。語学力に自信がある、外国人旅行者との交流や日本文化を伝えていきたい、といった志がある方はぜひ取得を目指してみてください。ガイド業にこだわらず、この資格で得た知識や語学力を別の世界で活かす人も多いので、将来の選択肢も広がります。
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